Drive into Heaven or hell act.3(大学生Ver.)

 

 正直、いい加減飽きてきた。
 海堂と二人のドライブにというわけではない。
 黙って助手席に座っていることに、だ。

 海堂は車を操作するのに手一杯で、俺が話し掛けても生返事ばかりだし、会話があっても何処の道をどう行くのかとかそんなのばかりだ。
 目的地はデートらしく海だというのにこの色気のなさと言ったら。どうせなら臨海の水族館にも行こうとか行っていたのに。晩御飯は何処で食べようか相談もしていたのに。

 横目で海堂を見る。一心不乱にハンドルを動かすこと、ギアをチェンジすること、ペダルの踏み具合などに終始している。
 俺の方を一度も見ない。ずっと前方を見据えたままで。

 悪戯心というか、恋人と二人っきりになると当然込み上げてくる衝動に駆られた。
 こっちを見て欲しいとか、気にかけて欲しいとかそんな思いもあるけれど。
 すなわち、――触れたい、という衝動。

 触れるか触れないかのところで、海堂の左腿をすうっと撫でた。
 その瞬間。
「――っ!」
「ぐっ!」
 圧力がかかって前のめりになる。シートベルトがぐっと胸に食い込んだ。
「か、海堂……!」
「――赤信号」
 海堂は前を睨みつけたまま、いつもより数段低い声でぼそっと呟いた。
 確かに前方の信号は赤だった。この位置だと停止線を僅かに出てしまっているだろう。
「……ちゃんと前見てなきゃ」
 締められたシートベルトを緩めつつ、苦言を呈す。
 しかし。
「アンタがちょっかいかけるからだろうが!」
 すぱんっ、と平手で後頭部を一撃。
「運転手に手ェ出すんじゃねえ! オレはアンタと心中なんて真っ平なんだよっ」
「俺だって死にたかないけどさ……」
「シートベルトの他に、手も縛ってやろうかァ?」
 横目で睨む目が殺気立っている。こりゃ本気で怒ってると察した俺は、結局下品な方向で誤魔化した。
「――緊縛プレイ?」
 しかし敵はまったく動じず、馬鹿にした笑いを浮かべてくる。
「お好みなら」
「…………」
 言うようになったもんだ。俺の教育の賜物かと思うと、なんだか涙が出てきそうだ。

 フンッと鼻で笑い、決意の篭もった口調で言い放った。
「ちゃんとナビしろよ。折角だんだん慣れてきたんだから、海までぜってえオレが運転してく」
「帰りは俺か?」
「オレでもいいっスよ」
「いやそうだな、俺が運転しよう、疲れるだろうから」
「…………」
 眉間に皺を寄せて黙り込んだ。同時に、車が動き出す。信号が青になった。
 当初よりは発進がだいぶスムーズだが……。
「不満そうな顔しても駄目だよ。だいたい俺が楽しくない。おまえは俺より運転が好きなのか?」
「なんスかその比較。意味わかんね」
「あんまり生意気言うと、強制宿泊だからな」
「――……」
 黙りこんでしまった。
 そうか、そんなに嫌なのか、この男は。

 帰り道にラブホでもなかったか、俺は記憶のノートを必死で捲り始めた。


→ Can we return safely?

 

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