Drive into Heaven or hell act.4(大学生Ver.)

 

「ほんとに……」
「ん?」
「ほんとに、ここに、泊まる気ですか」
「部屋まで入ってきて、帰るわけにいかないだろ。金払っちゃったしさ」

 薄暗い室内。カラオケルームのように無駄に照明が落とされている。
 まるで引きずるように海堂を連れこんだホテルだが、思ったより清潔そうだった。
 結局何処か古びたラブホしか見つからなくて仕方なくここに決めたのだが、失敗ではなかったらしい。こういうあまり人の来なさそうなところの方が繁盛するのだろうか。
 デート帰りにしては悪くない場所だ。

「さ、やろうか」
「え」
「えじゃなくてさ、風呂先に使う? 俺は後がいいな」
「――するんスね……」
「だからさっきも言ったけど、帰るわけにはいかないだろ。それにこういうとこに来てやらないのはおかしい。と言うか、俺はそういう目的で来ました」
「なんでそんな……」
 大きめなベッドに引きずり込もうとする俺の腕を掴んで、上目遣いで訴えてくる。
「気合入ってんスか……」
「デートの締めだから」
 ぼふっと柔らかいベッドに押し倒した。
「……意味わかんねえ」
 海堂が片手で自分の目元を覆う。その隠された顔がじわじわ赤くなっていくのを、俺は歓喜と共に見やっていた。


 枕もとにあったパッケージを歯で破る。セーフセックス用のゴムは、男同士には関係ないけど(病気だのなんだのは関係あるか)、生で出すと面倒なのでなるべくつけるようにはしていた。
 本当は海堂につけて貰いたいなと思いながら、さすがにそれは無理だろうと自分を笑った。実際それはなんだか間抜けな光景のような気もするし。
 滑るように引き締まった肌を撫でるたびに、海堂の身体が跳ねる。
 身を捩って逃げようとするのを押さえつけて、あらゆるところを舌で弄った。

「こういうとこのゴムってさ」
「ん……」
「穴があけられてるって言うよね」
「……そ、」
「他愛ないいたずらって言うには悪質だけど」
「……あ――」
「俺はそういう馬鹿馬鹿しいの、好きだな」
「……っ、先輩……!」

 がつんと額を叩かれた。
 案外痛くて抗議のために海堂を見上げると、彼は顔を真っ赤にして涙目だった。
 うわあ、やばいよその顔……。
 しかし俺の内心の動揺にも気付かず、上擦った声で、
「アンタ、黙って、……やれよ、も……!」
 まるで、強請るような言葉を寄越す。
 催促に聞こえて浮き足立つ心をぐっと押さえて、うそぶいてみせる。
「――黙ってろってのは聞けないけど……俺喋るの好きだし」
「……、あのな」
「でも、我慢してみよう。だから最後に一個」
「な、に」
「またドライブしよう。今度はちゃんとした宿とって、泊まりで」
 音を立てて柔らかい唇にキスを落とす。

 キスを甘受した海堂が、ちょっとだけむっとした表情で訴えてくる。
「オレにも運転させてくれるんなら」
「う……」
 正直、あまり運転はさせたくない。今日で多少慣れたとはいえ、俺を見てくれない俺と喋ってくれない海堂と何時間も個室に一緒だなんて、忍耐の限界を超えそうだ。
「なんだよ、駄目なんスか?」
「あー、ん……うん……」

 ――ま、でもここはひとつ、頷いておこう。
 ずるい大人は嘘を平気でつくんだよ、海堂。
「分かった。安全運転を、心がけるならね」

 だって、あらゆるところへおまえと行きたいけど。
 できれば天国がいいだろう?

 

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