言えるわけない

 

 ――ミーティングがあるから、昼休み、部室に集合。
 という大石の朝練時の言葉に、昼休みが始まってすぐに部室に現れたのは、三年六組コンビ、河村、桃城、海堂、越前の六人だった。

「あれ、乾とおーいしは?」
「大石は朝に遅れていくって行ってただろ。乾はどうか知らないけど、どうでもいいよね」
「ふ、不二……そんな」
「あれ、タカさんのお弁当美味しそうだね、その魚何?」
「鯛だよ、安かったんだ」

 それぞれの弁当の中身を見合い、品評しあってる中でも特に海堂の弁当は評判が高かった。部員らにおかずを奪われたり交換したりして、かなりの好評を博していた。

「なー」
 いきなりのしっと桃城が海堂の背中にのしかかって、ゆさぶってきた。
「何すんだよ、重い」
「なーなーマムシー、出汁巻きくれ」
「うるせえバカ城、マムシ言うのやめたらくれてやる」
「分かった、海堂クン、くれ」
「…………」
 言い方が気に食わないながらも、乱暴に箸ごと桃城の口の中につっこんでやった。
「いでっ!」
 箸先が歯にカツンと当たってしまい、桃城が文句を言う。
「なんだよ、もっと普通に寄越せよ」
「人の弁当ねだっといてうるせえんだよバカ」
「なんだと、じゃあ返す!」
 何を思ったのか、桃城が海堂の顔を両手でつかんできた。驚いた海堂が、桃城の額を押してなんとか退けようとする。
「うわ! 顔近づけんなボケ!」
「くーちーうーつーしー」
「汚えいらねえ!」

 ギリギリの攻防を繰り広げていると、
「桃、そのへんにしないと」
 不二が小首を傾げて微笑んだ。
「アイツが」
 指を示した方向に、なんだか黒いオーラをまとった……。
「乾センパイ……」
 桃城が凍った声を出す。
 乾の唇が、笑みに変わる。明らかに作ったような笑顔だった。

「桃、ちょっとおいで……?」
 それはそれは優しげに手招きをする乾。対して桃城は真っ青になって小刻みに首を振っている。
「いいから。一昨日自分の部屋で起こったことをバラされたくはないだろう?」
「なっ、なっなんで知って……!」
「早くしろ、桃」
 特別声を荒げたわけではないが、桃城は弾かれたように立ち上がってギクシャクと乾と一緒に部室から去っていった。

 沈んだ空気が部室内に落ちる。
 沈黙を破ったのは、そりゃもう楽しげな響きだった。
「ねえ、海堂――後が怖いよね」
「ノーコメントっス」
 海堂は、ニヤニヤしてる不二を見ないように、食べ終わった弁当を鞄にしまいこんだ。

 

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