カレー

 

「ん……、先輩、カレー食いました……?」
「学食で。味する?」
 顔を覗き込むと、濡れた唇がうん、と呟いた。
「海堂は、昼、何食べた?」
「……べんと」
「海堂のお弁当は、いつも、美味しそうだもんな」
「ん」
「お母さんは、料理好き、なの?」
「そう、ス」
「羨ましいな、俺もあんな母親、欲しかったよ」

「あんた――」
 ぐいっと髪を後ろに引っ張られて、顔が引き剥がされる。
「黙って、……できないんスか……」
 キスの合間を縫って、べちゃくちゃ喋っているのを咎められた。
 途切れ途切れだが海堂も返事をしてくれるので、つい色々話し掛けてしまった。

 キスをしないのも勿体無いけど、二人でいるのに黙ってるのも勿体無いから、その妥協案なのだけれど。
 そう言うと海堂は「馬鹿言うな」なんて怒るだろうから、別のことを聞いてみる。
「カレー味はイヤ?」
「そうじゃ、なくって……」
 海堂がほのかに赤くなった目を緩やかに閉じた瞬間、五限目の予鈴が鳴った。

 

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