レッツサイクリング act.3

 

「帰りは俺が漕ぐよ」
「いいっスよ、だってオレが受けた……」
「いいから。どうしても自転車を漕ぎたい気分なんだ」

 馬鹿みたいな理由を取ってつけて、俺はマウンテンバイクのサドルに跨った。あんなとんでもないスピードで帰りも走られたら堪らない。しかも危険だ。
 言い含められた海堂は、渋々来た時の俺のように後輪の金具に立った。

「しっかり捕まってなさいねー」
「……はい」
 肩に手が置かれたのを確認して、ぐっと足に力を入れて漕ぎ出す。
 そういえば自転車に乗るのは結構久しぶりだ。いつも徒歩、電車、バスのどれかを使うから。

 すーっとタイヤが回り始めた瞬間、
「うっわ!」
 海堂がいきなり俺の首にしがみついてきた。
「ぐえっ」
 思いのほか苦しくて、蛙が潰れたような声をあげてしまった。
「ぐ、が……な、何?」
 慌ててブレーキを踏んで止まり、海堂を振り返る。
「す、すんません、反動にびっくりして……」

 そうか……二人乗りというのは双方のバランスで保たれるものだ。自転車を漕ぐよりも、後方に乗っていた方がバランスを取るのは難しい。

 ちょっと申し訳なさそうな海堂に、俺は先輩らしく余裕ぶって微笑んだ。
「分かった、じゃあしっかり捕まってなさい」
「ハイ……」
 俺の言葉通り、海堂はしっかり俺の肩に手を回してくる。しがみつくような格好だ。

 素直だなあ、こいつは。

 その密着度に緩みそうな表情をぐっと堪えて、今度こそ自転車を漕ぎ出した。

 

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