レッツサイクリング

 

「あれ、海堂、どうしたのソレ」
「あ、先輩……。えっと、これは……」
 いたずらを咎められた子どものように気まずい表情で、海堂は視線をそらせた。
 海堂は何故かマウンテンバイクに跨って、校門を出て行こうとしているところだった。明らかに部活の最中であるジャージを着たまま。

 確か記憶によると、そのマウンテンバイクは……。
「桃のじゃないか?」
「……っス」

 桃城とワンゲームの試合をして、惜敗した。負けた方は一個だけ言うことを聞くという、実に中学生らしい罰ゲーム付きだったのだと言う。
 それで桃城の命令を受けた海堂は、買出しへ行かされると言う責を負った、と。
 三年が引退してから、結構後輩たちはのびのびやっているらしい。いいことだ。

 ぼそぼそと嫌そうに説明する海堂に、俺はつい「後ろに乗せてくれない?」と持ちかけた。
 あまり考えずに言った言葉だが、口にするととても良い提案に思えた。無論、俺にとってだけだが。

 案の定海堂は、
「そんなとこまで罰ゲームの範疇じゃないっス」
 と眉間の皺を深くした。
 勿論そう言われるのも予想していた。海堂の性格ならそうだろう。

「じゃあジュースおごるよ」
「ジュースっすか……」
「ヨーグルトもつけようか?」
 海堂の好物を挙げて、なんとか懐柔しようと試みる。

「足腰の鍛錬にもなるよ」
 苦し紛れの言い訳に、海堂はむむっと唇を突き出しながら頷いた。鍛錬という言葉が効いたのだろうか……海堂のことだ、間違いない。

 後輪の金具に足を乗せて、海堂の肩に手を置いて乗っかった。
「しっかり捕まっててくださいね」
「分かったー」
 二人分の重みにタイヤを軋ませながら、ゆっくりと走り出した。

 

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