難攻不落

 

 いつの間にこういう状況になっているんだろう、と曖昧な感覚のまま、南次郎はうつ伏せに組み敷いた若い男を見下ろしていた。
「おいクソボーズ、いい加減離せよ!」
 リョーマの、同じ部活の、先輩の。そのくらいの知識しかなかった。
 時々家に来て、リョーマと仲良さそうにテニスなんぞしているのをみて、あー若ぇなあなんて感嘆したもんだ。
 桃先輩、とか呼ばれていたな。――そうだ、桃城武。

 その「桃先輩」を、どうして俺は押し倒してやがるんだ?

 ――まあいいか。
 どうでもよく、南次郎は思う。そうだ、どうでもいいや。
「桃城クン?」
「――、」
 南次郎の笑顔に、桃城がびくりと引き攣った。
 ああ、いい表情だ。なんだかひどく下半身にクる顔をしやがる、こいつ。どう間違ったって男にしか見えないのに、怯えたような表情がたまらなく情欲を煽った。
 我ながら強引だと思いつつ、桃城のシャツをその身体から引き剥がした。

 

 ――ぐぢぐぢと尻穴を弄る。これならいけるかもしれないと、南次郎はほくそ笑んだ。
 女とアナルファックの経験はあったが、中学生とはいえ男の尻は固い。だが内部は意外に熱く、絡みつくように柔らかかった。ちょいと狭そうだが、人間案外丈夫なもんだ。
「クソ、死ね、変態」
 小刻みな息の中、生意気な口を叩いてくる。とても楽しい。
「ここを――」
「っ、ひ」
「擦れば、男でも女みてえに善がるって知ってたか?」
 人差し指を差し入れて、ちょうど指先にあたるコリコリした部分を擦り上げる。
「あ、あ、きっ」
「気持ちイイだろ? 安心しろ、俺は上手いんだよ」
「き、気持ち、わりィ、んだよ」
「そうか? その割りに」
 無造作に、まだ若いペニスを握り締めた。
「カチカチじゃねえか、分かるか? 汁も出てる」
「へん、たい」
「そうかもなあ」
 楽しそうに南次郎は笑った。実際楽しかった。久々だ、人を蹂躙することに暗い喜びを覚えるのは。
「なあ桃城クン?」
「なん、だよ、呼ぶんじゃ……」
「挿れるぜ?」
「――っ!」
 南次郎の宣言に、改めて桃城がじたばた暴れ出す。大人の力に中学生の子どもが敵うわけねえのに。
「後ろからがいいか、前からがいいか、選ばせてやろうか」
「死ね……、マジで、!」
 どうせ答えないことは分かっていた。言葉途中で、尻穴に猛ったペニスを突き入れた。後ろからだ。縁がぎゅうぎゅう締め付けてくるのが、丁度いい具合だった。
「ふ、う……ああ、クソっ……」
 床に爪を立てて、必死で堪えている。
 ――堪えているのは気持ちよさなのか痛みなのか、南次郎には判断がつかないが、そんなことは関係ない。
 自分が気持ちいいじゃないか。
 しかしどうせならめちゃくちゃに善がらせた方が面白いと思い直して、手を前に回して桃城のペニスを握り締めた。
「うあ――」
「なんだ、勃ってんじゃねえか。――、おい、締めんじゃねえよ……達ったらどうすんだよ」
「し、知る、か……。出てけ、馬鹿、出て……」
「桃城クンに聞きたいことがあるんだけどな」
「なん――」
「リョーマは、部活ではどうなんだ?」
「そっ――」
 首を捻って、気丈にも睨みつけてきた。犯されてる割りに堂々としていて、いい。
「そういう、ことを、こう……いう」
 ぶるっと首をすくめて震えた。眉を寄せて、泣きそうな顔をしている。
「こういう、時に聞くのは、……」
 セットして立てているはずの髪が乱れて、額にはらはら落ちて汗で張り付いている。そのことに気付いて、初めて、桃城の顔をまともに見たような気がした。
 大人と子どもが混ざったような顔つきと、その表情をよく映す目は、なるほどリョーマが気に入りそうだ。比較的整った顔も今は歪んではいて、瞳は怒りと快楽がない混ざっていたが。
「無粋だったか?」
「そういう問題でも――あ!」
 腕力だけで強引に桃城の身体をひっくり返した。
 驚いた桃城が、南次郎の肌蹴た着物の前合わせを握ってくる。その行動ににやりと笑いつつ、左足を抱えて結合を深くした。
 桃城自身から垂れてくる液体が孔まで滴って、抽送のたびにぐちゅぐちゅ淫猥な音をたてる。泡だった体液が床にまで落ちる。
 いつのまにかいていたのか、南次郎の頬からも汗が伝い落ちていた。予想より早く達きそうだ。こいつの中、具合が良すぎる。
 打ち付けるように何度も孔に肉棒を穿ち、内壁全体を擦る。荒い呼吸とともに、時折締め付けてくるのがまた頂点を促す。
 日に焼けた喉を仰け反らせて、桃城が潤んだ声をあげた。
「うう……あっ、あ――も、」
「達くか?」
「あ、チクショ……うああ……っ」
 抉るように、おそらくここが前立腺だという個所を突き上げる。ぎちりと音がしそうなくらい、孔が締まった。
「――く、」
「ああ、い、あ――!」
 締め付けにひきずられて、狭い腸壁に精液を叩きつけるように流し込む。同時に、桃城の昂ぶりも弾けた。
「い、ぃ……ぁ」
 力の抜けたペニスを引き抜くと、吐き出した白濁が後孔から溢れ出した。南次郎の着物を握っていた手が、ゆっくり床に落ちていった。
「――素質あるぜてめえ、尻だけで達けるなんてな」
「ん……あ、……」
 ガクガクと震えたままの桃城にくちづけた。桃城はびくりと身を震わせたが、やがて力を抜いた。
「……ふ」
 瞼を下ろした睫が薄く濡れている。目を閉じたまま、南次郎のうって変わって優しい舌の動きを受け入れていった。熱い肉塊が逃げもせずに咥内で大人しくしているのを、思う様舐め尽くした。
「はぁ……」
 息継ぎをするために唇を離したら、桃城は唾液が顎に伝う感触を厭うように首を振って、吐くように毒づいた。
「クッソジジイ……ヒゲが、いてえよ……」
「はっ、いいなてめえ、可愛いよ……」
 南次郎の言葉に、大人びた苦い笑いを浮かべるのを、また可愛らしく思った。
 自分に組み敷かれる、同じ男の身体をマジマジと眺める。男に欲情したのも初めてだが、まさか自分の息子とそう変わらない年齢の少年を犯すことになるとは。
 腹にぶちまけられた精液が温度を失っていくのに指先で触れて、もっと、と純粋に感じた。もっと熱いものが、もっと欲しい。
「なあ、もう一回」
「……絶倫ジジイ」
 口ではそういうが、態度が抵抗の空気をまったくまとっていなかった。南次郎はうっそりと笑んで、桃城の足を抱えなおした。

 


「――というような夢を見たんだが」
「……きっしょ」
 リョーマはカルピンの毛づくろいから顔を上げずに、呆れを露わに呟いた。
 休日のうららかな正午、もうすぐ昼飯かという時に、何を言い出すんだこのクソ親父……。
「いや我ながらどーかとは思うのよ。でもな、見ちゃったもんは仕方なくねえか?」
「同意できない」
「そう言わずに、今度またあのガキつれてきてみねえ?」
「却下!」
 苛ついたリョーマは、座布団を父親に投げつけた。それに驚いたカルピンが、膝の上から逃げてしまう。
「いーじゃねえか試しに……」
「なんの試しだよ、却下は却下」
「あらリョーマちゃん、ヤキモチ?」
 とっさにちゃぶ台の上の湯呑みをつかんだ。それを見て慌てる南次郎に、容赦なく投げつける。
「うあっちいい――!」
 けたたましい南次郎の悲鳴が、寺中にこだました――。

 

2004/5/20

 

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