二律背反(※乾不二 前提 乾海/R-18)
「好きなんです」
あまりにさらりと言うから、つい聞き逃すところだった。
「え?」
「だから」
あまりにもまっすぐとした態度。
「アンタが好きなんです」
「海堂……」
ぞっとした。これは、嫌悪なのかそれとも喜びなのか。
射るような目線に耐えられない。でも、そらすことができない。
「不二先輩と、……付き合ってるんだろ?」
「……ああ」
取り立てて隠しているわけではなかったから、これにはそう驚かなかった。
それよりも、「好き」という言葉の方が余計に効く。
「それでもいいっス」
俺のシャツの裾を握る手は、とても強かった。
強かっただけに震えていた。
「先輩、好きなんです」
海堂の口の中いっぱいに、俺のペニスが含まれている。
「ふ、ん、ん」
鼻から呼吸をしているが苦しそうだ。
目を閉じて目尻に涙を浮かべて、俺のモノを貪るように咥える海堂は、その行為をやめようとしない。
「ぐ、……ん、ぅ」
時々喉の奥を突くのか、吐くような声をあげる。それでもやっぱりやめない。
荒い息をつきながら、俺は抵抗しなかった。
無理矢理座らせられ、ベルトをはずされても、下着からペニスを引き出されても、俺は一切動かなかった。
同情なのだろうか。俺を好きになって可哀想だから、勝手を許すのだろうか。
――俺の心は、完全に不二に天秤を傾けていて、海堂に向くことはないから、気の毒なのだろうか。
ああ、そういえば。
これって、不二に対する裏切り、なのかなあ。
脳裏に怒った彼の姿が浮ぶ。そしてそれはすぐに消えた。
「不二……」
海堂に気付かれないように、口の中だけでその名を呟いた。
「あふ……」
一度咥内から引き出されて、先端に小さいキスを受ける。
その刺激に現実の快楽に引き戻された。
「ん、む」
海堂薫。可愛い、可愛い後輩だ。
まだ細いうなじが半分黒髪で隠れている。顔を動かすたびに、さらさらと揺れる。
潔癖そうで真面目そうで、こういう行為を自分からしなさそうな少年が、こんな淫らなことをするというだけで、俺はいとも容易く興奮している。
可愛い。
でもこれは。
恋愛感情じゃ、ない。
「海堂、出る」
「ん、んん……」
折角予告したのに、海堂は俺を口から離すどころか、もっと深くに咥えてきた。
「かい、どう……も、――っ!」
どくんどくんと、欲望の塊が吐き出される。
「ん――ぐ、かはっ……!」
背中を丸めて、げほげほと盛大に咳き込んだ。
「おい……」
俺は初めて、自分から海堂に触れた。痛々しい背中を優しくさする。
「海堂、大丈夫か」
自分で出しておいて大丈夫も何もあるかと思ったが、まあ海堂自身にも原因があるので仕方ないだろう。
咳がようやく止まりかけた頃、ふうっと海堂の顔が上がった。
目が、合った。
「……せんぱ……」
涙目で顔を真っ赤にして口からは飲みきれなかった白濁が流れていて。
これはいけない。
本能がそう囁いたが、目はそらせなかった。
海堂の目がまた射るように俺を見る。
縋るように俺はまた、口の中だけで恋人の名を呼ぶ。
けれども。
俺が最後に思ったのは、……どっちの顔だったんだろうか。
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