006:ポラロイドカメラ

 

「あっ……あ、あ」
 意識して出している声ではない。漏れる、という感覚の方が近そうだ。
 にちゅにちゅといやらしい音がする。粘着質の水音は、聴覚からも官能を刺激する。
 その繋がった部分に意識が集中して、脳味噌が侵されていくのをたまらなく気持ちいいと思った。これを味わっているのは自分だけではないはずだ。
「動、く……っ」
「動いてくれるの?」
「うご、くなっ……つって……っ」
「それはずっとこのままでいたいってこと?」
「……っ」
 悔しそうにゆがめた唇。
 可愛い。
 可愛い上に、なんて嗜虐心をそそるんだろう。
 海堂の顔を見つめながら、思わず笑みが浮んでいたのが癪に触ったのだろう。彼はぎろりとものすごい勢いでねめつけてくる。
 震える厚ぼったい唇から、悔しそうな声が絞り出される。
「ここで、キモチイイ……とか、聞いたら……ブッ殺す……っ」
「あーそれいいな。聞いていい? 気持ちイイ?」
「殺すつっただろ……が!」
 苦しいだろうに、身を起こして乾の髪を乱暴に掴んだ。しかし力が入っていないのでまったく痛くない。まるで愛撫に似たその行為に、また笑んでしまう。
「物騒だなあ。あ、腹上死なら喜んでだけど」
「……なんスか、それ、は……」
「意味知らない? 教えてあげようか?」
「……いらない。なんか、嫌な感じが、するから」
 嫌な感じとは。勘のいい子だ。

「じゃあ、コレは……?」
 にっこり笑いながら、枕上に手を伸ばした。密かに使う機会を狙っていたものを手にする。
「……? あっ」
 不審に思った海堂の目が、乾の行動を追う。
 乾の手には、黒く光るレンズを嵌めた――カメラが収まっていた。
「なにを……すん、うあっ……」
 固くなっている胸の突起を押しつぶしながら、もう片方の手でカメラを誇示する。
「分かる? カメラ」
「や……」
「撮りたいだけ」
「や、めっ」
「海堂の顔を撮りたいだけ」
「いやだ……っ」
 さすがに必死で抵抗を始める。しかし繋がったままの状態では逃げることもままならずに、多少身を捩るだけで終わってしまう。その上、乾がしっかり覆い被さっているのだ。
「ぜっ……ったい、いやだっ」
「なんで。じゃあ俺も撮っていいよ?」
「……! そういう問題じゃあ……ああっ」
 腰を突き上げると、海堂が甲高い声をあげる。
 ――パシャッ。
 同時に鈍いシャッター音。
「……てめっ……いやだって言ったのに!」
 我に返った海堂は、手を伸ばして乾からカメラを取ろうとした。
 その瞬間、ずくりと突き上げられてまた仰け反る。体内の乾をより感じたらしく、反射のように目を閉じた。
「うあ……っ」
「これ、ポラロイドだから、すぐ見られるよ」
 レンズの下から紙が一枚吐き出される。
「二、三分かな?」
「やめろ、寄越せ、それっ」
 海堂が再び手を伸ばしてくるので、乾はからかうように写真をひらめかせる。
「浮き出たら寄越すって」
「そ……じゃねぇだろ……!」
「そう動くなよ、イキそう。誘ってるのかな」
「馬鹿……!」
 これでも必死の忍耐力で達くのを堪えているというのに、海堂はじたばた暴れ出す。無闇に刺激されると危ないのに。
「ねえ、もうすぐ出てくるよ」
「寄越せ……てば、あ、んっ、ん、ん……」
 ぐりぐりと胸の先端を弄るのに反応して身体が跳ねるのに、乾を包み込んでいる内部も連動する。
 さてどのタイミングでこの写真を見せてやろうか。
 乾はその時の海堂の反応に思いを馳せた。

 

2004/6/4

 

BACK