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「素直じゃないってのも考えものだと思うがな」
「んっ……何、」
 肩に担ぎ上げた脚を撫で上げる。
「う……」
「そういうのも可愛いと思えるには思えるんだが、少しくらい甘えてくれてもいいんじゃないか?」
「……甘える……? はっ、馬鹿馬鹿しい――」
 嘲笑って、身体を逃げるように捻る。俺はその身体を強引に引き戻した。
「っあ!」
 不二の内部で俺のものが角度を変えて抉ったらしく、細い顎が仰け反る。浮き出た喉の血管をゆっくりと撫でると、中が蠢いて反応し、不二が歯を食いしばる。
 案外我慢のきかない不二の身体は素直なのに。
 腰を押し付けるようにかき回すと、結合部からぐちゅぐちゅと粘液が溢れ出してくる。前戯で塗り込めたジェルだ。

 不二は俺に優しくされるのをいつも拒む。
 俺の部屋に来るのも拒む。
 今日だってなんとか宥めすかして、やっと俺の家までつれてきた次第だ。
 思えば、一番最初もそうだった。
 碌に慣らしもしない後ろに、無理矢理俺のものを突っ込んでいた。痛かっただろうけれど、必死でそこから快楽を感じ取ろうとしていた。
 俺が不二に触れようとすると拒絶をみせ、慌てていたのをよく覚えている。
 二度目からは俺の方からアクションを起こした。
 嫌がる不二を半ば強引に押さえつけて、あちこちに触れて舐めてどろどろにしてやった。いつも冷静なあの表情が崩れるのを見下ろすのは、とても気持ちがよかった。
 ――いや、少し違う。
 俺は征服欲を満たしていたのかもしれない。

 俺を飲み込んでいっぱいに広がった後孔に指を触れさせると、不二の顔が更に歪んだ。
「いっ、ぬい……!」
「すごい……キツイ?」
「触、るな……よっ」
「そう締め上げないでくれ……イキそう」
 無言で額を叩かれた。ものすごい形相で睨んでいる。
「言葉責めは嫌いか?」
「そういう、ことを、言う、君が、キライ」
「おまえのそういう減らず口は大好きだよ」
 微笑むと歪んだ顔のままの不二が目を細めた。首を捻らせて、俺の枕に顔を半分埋めて口を閉じる。閉じるというより食いしばるという感じだが。
 また不貞腐れられてしまった。
 こういうときは身体を懐柔するに限る。
 後ろを再び指でなぞって、滑る動作で前へ触れる。
「あ! や……う、あ」
 熱くて先端からとろとろと液をこぼしている。やっぱり身体は従順だ。
 塗り込めるようにゆっくり刺激すると、不二は咄嗟に自分で口を押さえた。掌を噛んでいる。その手をはずしてやろうかとも思ったが、堪える姿もまたそそるものがあるよな、と思い直した。
 ――俺もたいがい変な思考の持ち主だよな。
 ほっそりした脚を引き寄せて抽送を繰り返す。決して優しいとは言えない行為だが、弄っている前は昂ぶったままなので感じてくれているはずだ。
 なにより、表情が如実に表している。
 いつものポーカーフェイスが微塵も見えない。
 ぐずぐずに崩れて、何も考えられないふうで、とても、いとおしい。
「ん、ぁう……ん、ふ、あっ」
 声がワントーン高くなった。そろそろ限界が見えてきている。
「あ、く、ぅあ……っ」
「不二……」
「呼ぶ、な、あ……あ!」
「不二」
 耳に息を吹き込むようにわざと甘く囁き、耳朶を舐める。
 ぎゅっと瞑った目尻から涙がすうっと流れ落ちた。駄目、と呟くように手の下で唇が動いた気がした。
「う、ん――んっ、!」
 掌で己の口を押さえたまま、びくびくと身体を痙攣させる。熱い液体がお互いの腹部にぶちまけられ、俺も彼の体内に欲望を放った。
「く――」
「う、う……ん」
 顎を引いて肩を縮こまらせて、内部の衝撃に堪えようとしているようだ。俺もきつく搾り取られる中に引きずられないように自制するので精一杯だった。
 それでも俺の方が衝撃から立ち直るのに早く、ゆっくりと身を起こす。はっはっ、とまだ荒い息をつく不二の髪を梳いた。
「……ちゃんと言えばよかったのに。誕生日を忘れるなんて最低だって」
「僕が、乾に……? なん、で――」
「仮にも恋人なのに、薄情だって責めればよかったんだ」
「……っ」
 今更な言葉のはずなのに、不二は過剰に反応した。それに気分をよくした俺は、なるべく内に秘める揶揄を出さないように言葉を続けた。
「おまえが触れて欲しくなさそうだったから黙っていたら、機嫌を悪くするし手塚にはあたるし」
 首を乱暴に振って頭を撫でる俺の手を退かせると、半眼で睨んできた。
「……どうせ君が忘れるわけないと思ってた。ただ言わないのが腹立たしかっただけだよ。絶対僕から言ってやろうとは思わなかった」
「強情だな……」
「乾に言われることじゃないよ。いい加減どいてくれないかな、重いんだけど」
 迷惑そうに肩を押されてしまったので、圧し掛かっていた身体を離した。不二も起き上がったが、中途半端に身を起こして動きを止めた。
「ゴム……」
「使わなかった。誕生日だし」
「どういう理屈なんだよ、最悪」
「そういう理屈」
 ちゅ、とこめかみにキスをしても今度は逃げられなかった。
 ただ顔を少しだけ赤くして、不機嫌そうに俯くだけで。
 この分だと一緒に風呂に入ろうと言っても、抵抗は口だけっぽいなと踏んだ俺は、断りもいれずに不二を抱き上げた。案の定やめろ、と弱々しく怒鳴られただけで、暴れられたりはしなかった。
 四年に一度の不二の誕生日が終わるまであと数時間。
 こっそりあと何回できるか、などと思いつつ、浴室へと不二を運んだ。

 

2004/2/29

 

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